昔話法廷「ヘンゼルとグレーテル」裁判-主尋問と反対尋問-

昔話法廷

NHKのテレビ番組「昔話法廷」(Eテレ)、さるかに合戦に続く今年の新作は「ヘンゼルとグレーテル」でした。

幼いヘンゼルとグレーテルは、森の中のお菓子の家で老婆に迎えられて過ごします。
しかし、兄のヘンゼルが老婆に殺されると思った妹のグレーテルは、老婆をかまどに突き飛ばしてその命を奪いました。二人は老婆の家にあった金貨を持って家に戻り、貧しい家族に渡しました。

老婆を殺して金貨を奪った二人は、強盗殺人罪となるのか、
それとも殺人行為は正当防衛で無罪となり、金貨を奪った行為だけが窃盗罪になるのか。

証人尋問(被告人質問)に答えるヘンゼルとグレーテルの話を聞いている裁判員は、その話が本当なのか嘘なのか、戸惑います。
弁護人の質問に答えているときは、二人は当時のことを思い出しながら、しっかりと心を込めて話しているので、この子には正当防衛が成立するのではないかと思います。
しかし、検察官の質問に答えているときは、二人は問い詰められているように見え、ふむむ、これはお金を奪うための強盗殺人かなと思います。

この違いは何か。

それは質問の違いに由来します。

味方となる人が尋ねる質問、これを主尋問といいます。
主尋問では、質問者は、「いつのことですか?」「あなたはどうしましたか?」「その時のことを話してください」と回答者が答えやすいように質問します。
5W1Hで質問をするので、回答者は、自分が主役となって自由に話すことができます。
これをオープンな質問といいます。

それに対して、敵側の人が尋ねる質問、これを反対尋問といいます。
反対尋問では、質問者は、「あの時話したことと、今話していることと、ちがいませんか?」「あなたは当時、知らなかったですよね?」「はいかいいえで答えてください」などと、回答者に詰め寄る質問をします。
Do you~?Don’t you~?な質問をするので、回答者は自由な発言がしづらくなります。
自由に発言しようとすると、「聞かれたことだけに答えてください」と遮られたりしちゃいます。
これをクローズドな質問といいます。

そう。主尋問では主役は回答者(証人)なのに対して、反対尋問での主役は尋問者なのです。
そのため、誰が聞くかによって、同じ回答者の話であっても、違う話のように聞こえてしまうことがあるのです。

それでも、回答者(証人)が、嘘やあいまいな記憶ではなく、自信をもって明確な記憶に忠実に話すことができれば、反対尋問で詰め寄られても、ぶれずに話すことができます。
すると裁判官は、そのような「反対尋問に耐えた証言」はそのとおりだろうと信用してよいと考えます。
他方で、いくら主尋問のときに堂々と答えていても、反対尋問のときに、話がぐらぐら揺れたりすると、この人の言っていることは信用できるのかなと疑問符を持たれます。

裁判官・裁判員は、判決を下すための材料として証拠を吟味します。
証人の話という証拠を信用していいかを吟味するために、主尋問と反対尋問を行って、「反対尋問に耐えた証言」を証拠として採用しようとしているのです。というより、そういう仕組みを法律は用意しているのです。

はたして、ヘンゼルとグレーテルは、反対尋問に耐えたのでしょうか。
二人の運命やいかに?

NHK「昔話法廷」

弁護士 波戸岡光太
その思い、前に進める法律家。
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