吉四六さんで昔話法廷をやってみた-債権回収では恐喝にご注意を-

2017年の夏から、NHKのテレビ番組『昔話法廷』の新シリーズが始まりました。昔話のなかでは拍手喝采を浴びるはずの登場人物が、法律のもとでは別の立場に置かれるエピソードを通じて、法律について考えることのできる良い番組です。私も弁護士として、昔話法廷を興味深く観ています。
NHK「昔話法廷」

今回は、債権回収に関わる問題を昔話を混じえてお送りする、波戸岡流の昔話法廷をお届けします。
被告人になるのは、トンチ話の人気者・吉四六(きっちょむ)さんです。
題材とする昔話は吉四六話の「山を持って来る」です。

~「山を持って来る」のあらすじ~

寒くなったころ、借金を負っているある家庭に、借金取りがやってきて言いました。
「借金をすぐに返せ。返さないのなら家を焼き払うぞ!」

この話を聞きつけた吉四六さんが止めに入ります。
「とても返すことはできません。もし借金をチャラにしてくれるなら、どんなことでもします」

これを聞いて、借金取りが答えました。
「そうか。では、あそこに見える山を、ここに持ってこい。そうしたら借金をチャラにする」

皆が帰った後、吉四六さんは薪の山をつくり、借金取りに言いました。
「山を持って来るのに村の家が邪魔なので、あなたの家も含め、すべて焼き払います」

借金取りは驚きました。
「待ってくれ。この寒いのに、家が焼かれたら死んでしまう。借金はチャラにするから、それはやめてくれ」

こうして、借金を負った家庭は、家を焼き払われることなく、年を越すことができました。

めでたし、めでたし。
となるはずでしたが……

昔話に学ぶ債権回収の注意事項

非常にわかりやすい例なのですが、まず、債権者(借金取り)が「家を焼き払うぞ」と債務者を脅しています。

これは、相手の財産・生命などに対する加害をほのめかすことで経済的メリットを得ようとしているので、明らかに恐喝にあたります。

恐喝として刑事事件になっても、債権が直ちに消えてしまうわけではありませんが、債権回収問題に加えて、刑事事件という厄介な問題を抱えてしまうことになります。

恐喝として扱われてしまうと、弁護士に相談したとしてもその事実は揺るがせないので、真摯に反省し、刑を軽くするよう努めるほかありません。

「恐喝なんてする訳ないじゃないか」
とお思いの方もいるかもしれません。
しかし、お金を貸した側は、返してもらおうと必死ですから、つい語気が荒くなってしまうことがあります。恐喝にあたるかどうかのラインは必ずしも明確とは言い切れませんが、第三者が該当箇所の言葉を見聞きして、一般常識的に恐怖を感じるかどうかが判断の分かれ目です。
本人に恐喝したつもりがなくても、恐喝という扱いになってしまう可能性は十分にあります。

債権者と債務者という関係にあっても、あくまでもビジネス取引の関係ということを忘れずに、常識的な対応をとるようにしましょう。

法律のもとでは「めでたし、めでたい」とはならない!?

さて、吉四六さんの話に戻りましょう。
吉四六さんの行動を見ると、村(借金取りの家を含む)を焼き払うと脅しています。

(借金取りの)違法行為に対処するためだとしても、法的にはやはりNGの可能性が高いです。

吉四六さんの行為も、恐喝罪にあたる可能性があります。
刑法では、金銭などの財産を得る財物恐喝だけでなく、「料金をタダにしろ」「借金をチャラにしろ」などの経済的メリットを得る目的のものも恐喝罪として禁止されています。

そして、恐喝行為下でなされた約束は、法的効力の面では問題があります。そのため、驚いた債権者の「借金をチャラにする」という言葉も、なんら意味をもたないものになる可能性があるのです。

知能犯にご注意を

今回のお話を端的に言うと、吉四六さんという頭脳派のブレーンによって、債務者が債務を逃れたというストーリーです。

「焼き払うぞ」というような恐喝を、債務者が行うことは通常のビジネス現場ではあまり考えられません。こうした強硬的なやり口よりも、今は知能犯的なやり口による債務逃れが一般的なので、債権者は注意が必要です。

例えば、最初から債権を返す気もない人ほど、軽々しく判子を押したり、一筆書いたりすることもあります。債権者が安心しているところで、姿をくらませる算段です。

このような知能犯にあたってしまうと、いざというときに内容証明を送ったり、訴訟を起こしたりするなどの労力を割いても暖簾に腕押し。債権者のアクションはすべて徒労に終わってしまうことにもなりかねません。

債権回収問題にしないアクションが大切

私は、ビジネスパーソンの方々には、債権回収問題がトラブルに発展にしないように事前のアクションをとるようにアドバイスしています。

具体的には、相手の経営が不安定だったり、初見の取引相手の場合には、前金(前払い)の取引にするというアクションが考えられます。さらに、その前提として、取引相手の信用格付けをしておくことも必要でしょう。

債権回収問題を未然に防ぐには、下の記事も参考にしてください。
債権回収の問題が起こってしまう理由とは?

それでも、もし債権回収問題になってしまった時は、債務者と良好な人間関係を保つことが重要です。「あの人に返さないと悪いな……」という気持ちを債務者に持たせることができれば、雲隠れしてしまうリスクも減らすことができます。
今回の借金取りのように脅すのではなく、債権を回収するためにすべきアクションを、感情的にならずに順を追って実践していくことが大切です。

ここまで記事をご覧いただきありがとうございました。
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私は企業の顧問弁護士を中心に2007年より活動しております。

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
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