トラブル解決の心得 -「人」より「こと」にフォーカスする-

「これだけの大人が集まってるんだから、知恵を出し合いましょうよ」

私のこの言葉を受け、それまで机の向こうから私をにらみつけていた相手方弁護士が、視線をそらしました。
ここは裁判所の弁論準備室(会議室)です。机の向こうに相手方弁護士、お誕生日席に裁判官が座っています。

売買代金を払え、いや払わないという債権回収のトラブルが高じて、訴訟にまで発展してしまいました。
お互いに自分の言い分や証拠を提出し合ってガチンコ勝負を繰り広げる中、訴訟もだいぶ終盤に向かってきました。
けれど、代金をめぐる言い分の鋭い対立は、次第に人への攻撃にも転じてきています。
最初は債権回収の問題だったものが、やがて、おたくの会社は信じられない、社長はどうかしてるんじゃないか、開き直ったようなその態度は何だ、といった具合に、トラブルの対象が人へとずれていくのです。

このように、もともとは受け取った商品やサービスに対する不備や不満があり、「こと」に対するトラブルだったものが、次第に、こんなものを提供するやつは許せない、人としてどうかと思う、制裁を加えてやらねばならないなどと、気づけば「人」に対するトラブルに発展してしまうことは、よく起こります。

「こと」の問題にシフトする

しかし、原因を他人に求め、人を攻撃したところで、実は得るもの(成果)は何もありません。
人を攻撃したところで、何の成果も生み出しません。
仮に「正しいのは私だ」という自尊心が満たされても、それを成果とは呼びません。

そうはいっても、人は感情の生き物ですから、「こと」の問題が「人」への問題にずれてしてしまうことは起こりうることです。
そんなときこそ、「こと」の問題にシフトしなおすことが必要です。

冒頭の裁判所の場面では、私は債権回収を求められる側の代理人でしたが、先方代理人の視線はとても攻撃的で、「おたくの会社は信用できない。こちらの提案を飲めないなら、判決でもなんでも構わない」という口調でした。

それに対する私の言葉が、
「相手が悪いといって攻撃しあったところで、何も決まらないですよね。あなたも何も得られない。」
「互いの立場の差こそあれ、今起きている問題、つまり「こと」を解決したい点では私たちの利害は一致しているじゃないですか。これだけの大人が集まってるんだから、知恵を出し合いましょうよ」
というわけでした。

視線をそらした相手方弁護士も、「まあ、それはそうですね」と納得した様子を示しました。
両代理人のやりとりを眺めていた裁判官も、ようやく前傾姿勢になって、「こと」の解決にむけて本腰を入れてきました。

こうなれば後は速いです。「こと」の解決を目指し、互いが依頼者の最大の利益の実現を目指しながら取り組み、知恵を出し合い、Win-Winの解決をめざしていきます。
そうすることで、禍根を残さない、最も理にかなった解決を実現することができます。
こういうプロセスを形作ることは、法律家の醍醐味のひとつとも言えます。

というわけで、トラブルや問題の解決は、「人」でははなく「こと」にフォーカスすることが大切です、というお話でした(^^)

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波戸岡 光太 (はとおか こうた)
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