弁護士とことば・その2「どういうシュシですか?」

弁護士がよく使うことばに「趣旨」があります。

(相談者)「Aさんはその会議にいたんですよ」
(弁護士)「それはどういう趣旨ですか?」
(相談者)「シュシ…?」

(相談者)「この証拠を見てくださいよ」
(弁護士)「立証趣旨はどう考えますか?」
(相談者)「立証シュシ…?」

このことば、クセモノです。
よく使われる割に多義的で奥が深いです。

ひとつは、①「それで何を言おうとしているのか」という意味です。
「Aさんはその会議にいたんですよ」
「それはどういう趣旨ですか(=あなたはそのことで何を言おうとしているのですか)」
「Aさんは反対意見を言えるチャンスがあったということを言いたいのです」

また、②「それでどんな事実を証明したいのか」という「証拠と事実の関係」という意味もあります。
「この証拠をみてくださいよ」
「立証趣旨は何ですか(=それでどんな事実を証明するのですか)」
「この証拠で、○○という事実を証明したいのです」

ほかに、③「そもそもの狙い、意図」という意味でつかうときもあります(「法の趣旨に反する」とか)。

なぜ、こんなことばを弁護士は多用するのか。

弁護士は、どんなアクションをおこすときも、つねに「それで何をしたいのか」を意識して戦略的にアクションを起こさなければなりません。
実現すべき目標、ゴール、正義は自分で設定するのです。
それなしにただ「こんな資料があるから見といてね!」では、ジャッジを他に委ねることになりプロとして失格です。
だから、つねに「趣旨は何か」を意識しています。

けれど、「趣旨」のこまかな意味合いは、場面ごとに、①、②、③のように異なります。
そうなんだけど、「趣旨」という言葉は、それらをまとめた便利な言葉なので、弁護士はついそのまま使ってしまう。
それも依頼者との会話で使ってしまう。

そうすると、依頼者も「趣旨」って何となく聞いたことのある言葉だから、とくに聞き返すことなく、何となく会話が進んでしまう。。。
やがて、依頼者と弁護士とのコミュニケーションにギャップが生じていく。。。

ここは、弁護士が(私が!)、業界用語化した「趣旨」をそのまま使わずに、きちんと別の日常用語に言い換えて使うべきでしょう。
そうすることで、依頼者とともに、明確な目標を設定し、ひとつひとつのアクションが「何のためなのか」を意識しながら進めていくことができるでしょう。

ちなみに、「趣旨」は裁判官も多用します。
しかも弁護士とはプロ同士なのだから、言い換えなぞいたしません。
(裁判官)「代理人、ここはどういう趣旨ですか?」
(弁護士)「○○ということです。」
(裁判官)「あぁ、そういう趣旨ですね」
(裁判官)「この証拠の立証趣旨は何ですか?」
(弁護士)「○○ということです。」
(裁判官)「確かに、そのように趣旨を考えないと、立証趣旨として成り立ちませんからね。そのようなご趣旨と伺っておきます」
(裁判官)「次回のご予定は?」
(弁護士)「5月中はちょっと…」
(裁判官)「5月は全く入らないというご趣旨ですか?」
(弁護士)「いや、そんなことはないですけど」
(裁判官)「そうならそうではないという趣旨で承ります」

…シュシまみれ。(ややオーバーに書きました(^^))

弁護士 波戸岡光太
その思い、前に進める法律家。
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